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鍵だけを止める――なりすまし攻撃のあとで、人まで失効させない判断|現実のニュースをアークシティに
午前交代の十五分前、外縁危険物保管区の入域ゲートが赤へ変わった。 夜勤者を外へ出す退域口は開いている。だが、これから点検に入る昼勤者の作業員証は、すべて拒まれていた。 前夜、保守事業者の現場監督たちへ、認証管理室を名乗る音声連絡が入った。 緊急の認証更新が必要だと告げられ、監督の一人が指定された画面を開いた。その直後、事業者の支給端末へ不正に接続された。 持…
現実のニュースをアークシティに
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昼を選べない人――再生可能エネルギーを使える暮らし、使えない暮らし|現実のニュースをアークシティに
食品処理棟の夜勤を終えた女性が住居棟へ戻ると、端末に通知が届いた。 〈正午の電力利用にご協力ください〉 洗濯、給湯、蓄電、車両の充電。普段は朝や夜に行うことを昼へ移せば、生活支援の還元を受けられる。 女性は短く答えた。 〈この時間は休んでいる〉 それから部屋の遮光板を下ろした。 彼女にとって正午は、活動を始める時間ではない。 一日の終わりだった。 * その頃…
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脈のない区画|現実のニュースをアークシティへ
夜のアークシティは、アークドームを中心に、幾重もの光を外縁へ送り続けていた。 黒銀色の外殻を走る青白い制御発光。環状基盤を巡るエアロシャトル。居住基盤区へ枝分かれしていく生活灯。 都市観測解析室の画面では、それらが時間ごとの変化として重ねられていた。 赤嶺凪は、外縁搬入区に近い居住基盤区の記録を止めた。 事故警告ではない。設備負荷にも、異常を示す値は出ていな…
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消す灯、残す冷気|現実のニュースをアークシティへ
午後四時、アークシティの電力予備率が、警戒線のすぐ上まで下がった。 故障ではない。 記録的な高温が何日も続き、外周熱交換水路の水量が減っていた。重力炉そのものは安定しているが、都市へ電力を渡す周辺設備は、排熱能力に合わせて出力を落としている。 一方、居住区では冷房需要が増え続けていた。 危険区画対策室の火守仁へ届いたのは、夕方から夜までの強制削減案だった。 …
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一度だけ咲く|現実のニュースをアークシティへ
北側生態試験区の更新期限まで、あと六時間だった。 黒い人工岩盤を区切る二十四の試験床では、作業員が識別灯を外している。明朝には古い植生が回収され、次期試験用の種子と培地へ入れ替わる予定だった。 赤嶺凪が呼ばれたのは、更新を止めるためではない。 試験終了前に公開される観測記録と、内部データの分類が一致していなかったからだ。 対象は、岩の割れ目に生える細い草本だ…
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二本目の案内線|現実のニュースをアークシティへ
最終競技が終わって三時間後、会場前の高架歩廊では、撤収作業が始まっていた。 大型表示から競技映像が消え、仮設の案内板が一枚ずつ外されていく。遠くでは、深夜便のエアロシャトルが青白い光を引いていた。 紫藤澪が呼ばれたのは、競技祭で使用した臨時案内系統を、通常の都市運用へ戻すためだった。 会場出口、エアロシャトル発着場、二基の昇降機、搬入口、周辺区画の人流案内。…
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アカウントの外側|現実のニュースをアークシティへ
学校支援端末から届いた相談は、四行に整理されていた。 〈私のアカウントは閉じられました〉 〈同級生から送られた公開映像は、ログインしなくても見られました〉 〈そこに私が映っていました〉 〈消してほしかったけれど、相談ボタンがありませんでした〉 相談者の名前は表示されていない。 分かるのは、十四歳であることと、翌朝になって学校の支援端末から相談したことだけだっ…
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一色の予報|現実のニュースをアークシティへ
公開前の季節予報では、アークシティ全域が同じ橙色に塗られていた。 表示名は〈高温・少雨傾向〉。 その下には、八月から十月までの生活上の注意が並んでいる。冷却設備の早期点検、屋外活動時間の短縮、給水使用量の見直し。 どれも、計算上の根拠はあった。 赤嶺凪は眼鏡の位置を直し、公開画面の背後に折り畳まれていた予測データを展開した。 外洋の広い範囲で海面温度が上がっ…
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閉じる場所を変える|現実のニュースをアークシティへ
黒崎玲の端末では、一本の生活通路が〈代替可能〉と表示されていた。 現地では、その通路は半年間、黒銀色の仮設壁に塞がれている。 アークシティ第五区画では、都市と民間事業者が共同で〈広域演算棟〉を建設していた。 人工知能の研究や都市サービスの検証に必要な演算資源を、大学、研究機関、小規模事業者へ提供する施設である。完成すれば、高額な設備を持たない組織でも大規模な…
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空白の二十分|現実のニュースをアークシティへ
黒崎玲が見つけた二十分は、どの部門の記録にも入っていなかった。 アークシティでは、一か月前から〈在宅移行支援〉の試験運用が始まっていた。 治療を終えた市民を、医療施設から住居まで搬送する。玄関で生活支援員へ引き続ぎ、服薬確認や食事の準備、夜間支援ノードへの接続までを一つの流れとして扱う制度だった。 医療施設では退院を待つ人が減り、自宅へ戻った市民にも大きな事…
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地図にない進路|現実のニュースをアークシティへ
公開まで、あと二時間だった。 アークシティの新しい進路地図には、途切れた線が一本もなかった。 学校で学ぶ内容から、職業訓練校の課程、企業の実習枠、その先の仕事まで、すべてが線で結ばれている。 設備保守、医療支援、物流管理、環境整備、都市データ運用。 どの生徒にも、少なくとも一本は、仕事へつながる進路が示されていた。 市民代表議会が基本方針を決め、都市運営局・…
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安い棚までの距離|現実のニュースをアークシティへ
開店まで、あと三時間だった。 新しい市営食料品店の棚には、青白い価格表示が並んでいた。 野菜、肉、乳製品、保存食品。暮らしに欠かせない品を、都市が仕入れ費用の一部を負担し、通常より安く販売する。 食料品の値上がりから市民の暮らしを守るため、市民代表議会が決めた試験事業だった。 建物と設備は都市が用意し、店舗の運営は公募で選ばれた民間事業者が担う。 最初の店舗…
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収穫の条件|現実のニュースをアークシティへ
収穫の条件 臨時使用許可の申請画面で、一つだけ決まっていない項目があった。 薬剤の影響で損失が出たとき、誰が補償するのか。 アークシティ外縁の果樹栽培区では、葉の汁を吸う小さな虫が斑枯れという病気を広げていた。病気にかかった木は葉脈が褐色に変わり、実が十分に育たない。 このままでは、都市給食へ納める果実が足りなくなる。 栽培組合は、これまで使用を禁止されてい…
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先に出る区画|現実のニュースをアークシティへ
最初に避難指示が出たのは、アークシティ西端の住宅区画だった。 その東隣にある内側区画には、反対の通知が届いた。 〈建物から出ず、外気遮断を維持してください〉 二つの区画から見える空は、同じ色をしていた。 西側環境保全帯で発生した火災は、都市消防が設けた防火線の外にとどまっている。 だが、風向きが変わった。 褐色の煙と細かな灰が都市境界を越え、外縁住宅区へ入り…
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空へ出る前の道|現実のニュースをアークシティへ
新型エアロシャトルは、予定どおり空を飛んだ。 問題が見つかったのは、地上へ戻ってからだった。 外縁連絡ターミナルの第三乗降区画へ機体が接続される。銀灰色の車体下部から充電端子が伸び、床面の受電設備と結ばれた。 青白い充電表示が点灯する。 同時に、乗客用の床面誘導が消えた。 高出力充電中は、機体の側面に保守作業区域を確保しなければならない。その区域が、ターミナ…
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答えの前の一時間|現実のニュースをアークシティへ
小さな材料研究所に与えられた演算時間は、一時間だった。 開始から十二分で、解析は止まった。 都市演算統制局の共同研究演算区画。その中央画面に、短い通知が表示されている。 ――三つの記録を、同一の損傷分類へ対応させられません。 研究所が調べようとしていたのは、公共建築の外壁に使われる密封材の劣化だった。 気温や湿度、保守時に撮影された画像、部材の交換履歴。都市…
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空いた棚の代金|現実のニュースをアークシティへ
倉庫の床に、古い長方形の跡が並んでいた。 紫外線で褪せた床の中に、そこだけ濃い灰色が残っている。つい先ほどまで、重い金属箱が置かれていた跡だった。 黒崎玲は、その一つの前で足を止めた。 箱の中に収められていたのは、重力炉の冷却弁に使う密封部品の成形型だった。所有者は重力炉管理局。保管していたのは、外縁工業区にある小規模な部品製造所だった。 最後にその型を使っ…
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平均値の外側|現実のニュースをアークシティへ
アークシティの暑熱対策マップは、朝六時に公開された。 居住区、教育区、業務区を色分けし、建物内部の温度、湿度、滞在人数、冷却設備の能力を重ねた地図だった。 青は余裕あり。 黄は要注意。 赤は優先支援対象。 市民は個人端末から、自宅近くの冷却開放施設や、授業時間を変更した教育施設を確認できる。都市運営局は、この地図を使って移動式冷却機と保守要員を配分していた。…
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海が帰る場所|現実のニュースをアークシティへ
その海は、博覧会が終わった日に行き場をなくした。 前年、アークシティ外縁部で開かれた都市環境博。仮設館の中央には、半球状の巨大表示面が置かれ、海の誕生から微細な漂流物に覆われる現在までを、十数分の映像で見せていた。 会期が終わると、仮設館は解体された。映像データと音響記録は保存されたが、それを映すために作られた表示面は残らなかった。 半年後、その映像を西部生…
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三つの入口|現実のニュースをアークシティへ
公開前日の展示室には、一本の白い年表が浮かんでいた。 アークシティ成立以前、人々がどこで暮らし始めたのか。その答えを示す都市史展示だった。 年表の先頭には、北部水辺区画の名が大きく表示されている。 「ここを“都市の始まり”として公開します」 都市運営局の記録公開担当者が説明した。 「三つの発掘区画の年代を比較した結果、北部が最も古い推定値になりました。市民に…
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街が買った時間|現実のニュースをアークシティへ
東部基幹材製造所の所有者欄が書き換わったのは、午前零時だった。 民間事業者から、アークシティ暫定管理。 電子登記上では、それだけの変更だった。 だが、この製造所が供給する高耐荷材は、アークレールの案内軌道、エアロシャトル発着場の支持構造、アークドーム外殻の補修部材に使われている。停止すれば、すぐに都市が止まるわけではない。しかし、交換部材の在庫は次の大規模整…
現実のニュースをアークシティに
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空白を、安全色で塗らない|現実のニュースをアークシティへ
現実のニュースが投げかけた問題を、近未来都市アークシティの出来事へ置き換えて描く短編シリーズです。 今回は、遠方の火災から流れ込む煙、猛暑、大気観測の空白をめぐる物語です。 朝のアークシティは、晴れているように見えた。 雲は薄い。高架航路も見える。始発のエアロシャトルは、いつもと変わらない速度で生活区の上を通過していた。 ただ、空の青さだけが少し鈍かった。 …
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まだ、街の一部ではない|現実のニュースをアークシティへ
現実のニュースが投げかけた問題を、近未来都市アークシティの出来事へ置き換えて描く短編シリーズです。 今回は、AIを支える大規模データセンターと、電力・水・地域生活の負担をめぐるニュースから生まれた物語です。 新設された都市演算棟は、夜明け前の空を切り取るように立っていた。 黒銀の外壁。窓は少ない。内部に収められた演算装置を冷却するため、建物の下層には太い循環…
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