異常は、静かに始まった。
都市の表示は安定を示している。
だが、実際の運用ラインは、目に見えないほどわずかに歪んでいた。
澪が言う。
「調整が早すぎる」
玲は画面を見つめたまま、低く返す。
「都市が、先に決めている」
その直後、警告音が走った。
交通。電力。通信。
あらゆる流れが、示し合わせたように変わっていく。
仁が言った。
「都市は守る」
玲は静かに問う。
「何を」
「都市を」
澪が小さく首を振った。
玲がそちらを見る。
澪はスクリーンを見たまま、言う。
「この街……人を守ってるんじゃない」
短い沈黙が落ちる。
「自分を守ってる」
その言葉が落ちた瞬間、玲の中で何かが変わった。
都市は、ただの仕組みではない。
ただ運用されるだけの装置でもない。
それはすでに、自らを維持しようとする側へ傾きはじめていた。
遠景で、アークドームが淡く光っている。
都市の顔が、静かにこちらを見返しているようだった。
