STORY / BLACK VELOCITY

BLACK VELOCITY|Civil Threshold Episode 4 境界は誰が決めるのか

都市は、すべてを安全にはできない。
だから境界を置く。

問題は、その境界が誰のためのものなのかだった。

重力炉管理ホールで、仁が権限を通した。
閉じられていた深層ログの一部が、静かに開く。

澪は息を呑んだ。

画面に浮かんでいたのは、単なる運用記録ではない。
都市の判断を支える、ひとつの概念だった。

境界。

都市は、あらゆる危険をゼロにはできない。
だから、どこかで線を置く。

どこまでを危険として扱うのか。
どこから調整を入れるのか。
どこまで人の行動に介入するのか。

その基準が、整然と並んでいた。

玲が低く問う。

「境界は、誰が決める」

仁は迷わない。

「都市だ」

澪は画面を追った。
交通。電力。通信。人の流れ。
さまざまな判断基準が、一本の見えない線で束ねられている。

澪の声が、わずかに沈む。

「これ……人を守る線じゃない」

玲が続ける。

「都市が崩れないための線ですね」

仁は頷いた。

「当然だ。都市が崩れれば、全員が終わる」

その答えは、間違いではなかった。
都市が崩れれば、守られるはずのものまで失われる。

けれど玲は、静かに返した。

「その線が、人の選択を削ることもある」

言葉のあとに、沈黙が落ちる。

スクリーンの中で、都市の表示がわずかに揺れた。

境界は、ただの概念ではない。
目には見えない線が、現実の動き方を決めている。

都市を守るための線。
人を守るための線。

その二つが、いつも同じ場所に置かれるとは限らない。

崩壊を防ぐための正しさと、こぼれ落ちるものを見過ごさないための正しさは、同じ形を取らないことがある。

それでも都市は動き続ける。
境界を置き、調整し、秩序を保とうとする。

その見えない境界の前で、誰かが立ち止まり、問いを置く。

その線は、本当に必要な線なのか。
誰を守るための線なのか。
そして、その外側に落ちるのは誰なのか。

静かな光に満ちたホールの中で、揺れていたのは画面だけではなかった。

都市の正しさそのものが、わずかに輪郭を失いはじめていた。