今回扱うテーマの一言紹介
AIが電気を使うのは、答えを出すために大量の計算を行い、その計算を支えるデータセンターや通信設備、冷却設備が動いているからです。
AIは、スマホやパソコンの画面の中だけで動いているように見えます。
けれど、多くのクラウド型AIサービスでは、遠くのデータセンターにあるサーバーが計算を行っています。
そこでは、計算用のサーバー、データを保存する装置、通信設備、冷却設備、停電に備える電源設備などが動いています。
画面に短い答えが表示されるまでに、見えない場所で多くの機械が働いています。
導入
夜の机。
澪はノートパソコンを開き、AIに文章の相談をしていた。
少し待つと、画面に答えが表示された。
澪
「AIって、すぐ返事してくれるから、なんとなく軽いものに見えます。でも、これも電気を使っているんですよね?」
凪
「はい。AIは、答えを作るために計算をしています。多くのクラウド型AIでは、その計算をデータセンターにあるサーバーが行います」
玲
「見えない便利さにも、重さがあります」
仁
「便利だから使う。それ自体は悪くない。だが、広く使うなら、支える電力と設備まで見なければならない」
AIはどこで動いているのか
澪
「AIって、自分のパソコンの中で動いているわけじゃないんですか?」
凪
「端末の中で動くAIもあります。スマホやパソコンの中だけで処理できるものもあります。でも、大きな生成AIサービスの多くは、データセンターにある高性能なサーバーを使っています」
澪
「データセンターって、インターネットの倉庫みたいなものですか?」
凪
「入口としては、その理解で大丈夫です。大量のデータを保存し、処理する施設です。ただ、AIの場合は、保存するだけではありません。答えを作るために、大量の計算も行います」
仁
「倉庫というより、巨大な計算工場に近い。しかも、安定して動き続ける必要がある」
玲
「画面の返事は、遠くの機械が動いた結果でもあります」
なぜAIには計算が必要なのか
澪
「AIは、どんな計算をしているんですか?」
凪
「AIの種類によって違います。文章生成AIの場合は、入力された文章を数値として処理し、前後のつながりを見ながら、次に出す言葉を組み立てていきます」
澪
「どこかに完成した答えが保存されていて、それをそのまま出しているわけではないんですね」
凪
「はい。質問に応じて、多くの計算を重ねながら答えを作ります。画像を生成するAIなら、文章とは別の仕組みで、画像を組み立てるための計算を行います」
玲
「返事の速さは、計算の量を消してくれるわけではありません」
仁
「短い答えでも、裏側が軽いとは限らない」
AIは、作る時にも使う時にも電気を使う
澪
「AIが電気を使うのは、質問するときだけですか?」
凪
「大きく分けると、二つの段階があります。一つは、AIを作るための“学習”。もう一つは、利用者の質問に答える“推論”です」
澪
「学習と推論?」
凪
「学習は、大量のデータからパターンを身につける段階です。推論は、学習した結果を使って、質問に答えたり、画像を作ったりする段階です」
仁
「大きなAIを作るには、学習段階で大量の計算が必要になる。そして、使う人が増えれば、推論のための計算も積み重なる」
玲
「作る時にも、使う時にも、電気が要ります」
データセンターは何に電気を使うのか
データセンターで電気を使うのは、AIの計算だけではありません。
まず、サーバーが動きます。
AIの計算には、高性能な半導体が使われます。
次に、データを保存する装置が動きます。
利用者から届いた情報を処理し、必要なデータを管理します。
さらに、通信設備が動きます。
質問を受け取り、答えを返すためです。
そして、冷却設備が動きます。
高性能なサーバーは熱を出します。
熱を逃がさなければ、機械は安定して動きません。
停電などに備える設備も必要です。
澪
「AIの答えを作るためだけじゃなくて、冷やしたり、止まらないようにしたりするためにも電気を使うんですね」
凪
「はい。計算する機械だけでなく、その機械が安定して動ける環境を保つ必要があります」
仁
「電力だけではない。立地、送電網、冷却方法、災害への備えも関係する」
玲
「便利さは、支える場所があって初めて動きます」
AIだけの電力消費と、データセンター全体の電力消費は分けて見る
ここで、一つ注意が必要です。
AIの普及によって、データセンターの電力需要は増えています。
ただし、データセンターはAIだけのためにあるわけではありません。
検索。
動画配信。
電子決済。
オンライン会議。
企業のクラウドサービス。
SNS。
ネット通販。
私たちが日常で使う多くのサービスも、データセンターに支えられています。
澪
「データセンターが使う電気を、全部“AIが使った電気”と考えるのは違うんですね」
凪
「そうです。AIは電力需要を増やす大きな要因ですが、データセンター全体の数字と、AIだけの数字は分けて見る必要があります」
仁
「数字の置き場所を間違えるな。大きく見せることも、小さく見せることもできてしまう」
玲
「分けて見る方が、重さを正しく受け止められます」
どれくらい大きな話なのか
国際エネルギー機関、IEAの推計では、世界のデータセンター全体が使う電力は、2024年に約415TWhでした。
これは、世界全体の電力消費量の約1.5%です。
さらにIEAは、2030年には約945TWhへ増えると見通しています。
AIは、その増加を押し上げる最大の要因です。
ただし、先ほど見たように、この数字にはAI以外のデジタルサービスも含まれています。
澪
「割合だけ見ると小さく感じます。でも、電力量で見ると大きいんですね」
凪
「はい。世界全体では数%でも、データセンターが集中する地域では、送電網や電源への負担が大きくなる場合があります」
仁
「全国平均だけでは見えない負担がある。どこに建てるか、どこから電気を運ぶか。地域ごとに考えなければならない」
玲
「小さく見える数字でも、場所によっては重くなります」
日本では何が問題になるのか
日本でも、AIやデジタル化を背景に、データセンターや半導体工場の新設が進んでいます。
ここでも注意が必要です。
電力需要が増える理由は、AIだけではありません。
データセンターの増加、半導体工場の新設、産業のデジタル化など、複数の要因があります。
澪
「AIの話だけど、結局は電力インフラの話にもなるんですね」
凪
「そうです。発電する力、電気を運ぶ送電網、データセンターを建てる場所、省エネ性能、災害への備え。全部が関係します」
仁
「必要な電力を確保するだけでは足りない。効率よく使うことも必要だ。需要が増えるたびに、無制限に設備を増やせるわけではない」
玲
「使う場所だけでなく、支える場所も見ます」
AIの電力問題は、AIを使うなという話なのか
澪
「でも、AIが電気を使うなら、なるべく使わない方がいいんですか?」
凪
「そこまで単純ではありません。AIは電力を使いますが、同時に、ほかの場所で使うエネルギーを減らす可能性もあります」
澪
「どういうことですか?」
凪
「たとえば、電力需要の予測、工場設備の効率化、建物の空調管理、物流ルートの調整、設備の故障予測などです。必要なところへ必要な分だけエネルギーを使うために、AIを活用できます」
仁
「だから、答えは“使うな”ではない。“何に使うのか”“どれだけ効率よく動かすのか”“どこで支えるのか”だ」
玲
「便利さを否定するのではなく、支え方を見る」
個人の使い方だけで解決する話ではない
AIの電力問題を、利用者一人ひとりの我慢だけで解決することはできません。
もちろん、何でもAIへ投げればよい、というわけでもありません。
けれど、それ以上に重要なのは、仕組みの側です。
省エネ性能の高いサーバーを使う。
冷却方法を改善する。
データセンターの立地を考える。
電源と送電網を整える。
必要な計算を、効率よく行う。
再生可能エネルギーを含め、安定した電力を確保する。
澪
「使う人が罪悪感を持つだけでは足りないんですね」
凪
「はい。利用者の意識も大切ですが、設備や制度、技術の改善が必要です」
仁
「個人の注意だけに押しつけるな。広がる技術なら、支える仕組みも同時に整えろ」
玲
「便利さの責任は、使う人だけのものではありません」
今の暮らしとどうつながるか
AIの電力問題は、専門家だけの話ではありません。
スマホでAIを使う。
仕事で文章や資料を作る。
画像や動画を生成する。
会社がAIサービスを導入する。
データセンターが増える。
地域の電力需要が増える。
電源や送電網の整備、省エネの議論につながる。
AIは便利です。
でも、その便利さは、どこかで電力を使い、設備を動かし、冷却し、維持することで成り立っています。
澪
「AIを使う時、ただ“すごい”だけじゃなくて、その裏で何が動いているかも少し見た方がいいんですね」
凪
「そうです。怖がる必要はありません。仕組みを知って、便利さと負荷を一緒に見ることが大切です」
仁
「新しい技術を使うなら、支える仕組みまで見る。それが長く使うための条件だ」
玲
「見えない便利さにも、動かすための重さがある」
締め
ノートパソコンの画面は、静かに光っていた。
澪は、AIの返事を読み終えてから、少しだけ手を止めた。
澪
「AIって、画面の中の軽い道具だと思っていました。でも、その返事の向こうに、サーバーとか冷却設備とか、電力を運ぶ仕組みがあるんですね」
凪
「今回は、AIがなぜ電気を使うのかを、計算、学習と推論、データセンター、冷却、電力インフラ、暮らしとの関係から見ました」
仁
「技術は、使うだけなら簡単だ。だが、広げるなら、支える仕組みまで整えなければならない」
玲
「見えない便利さにも、動かすための重さがある」
この回の核になる一文
「見えない便利さにも、動かすための重さがある。」
この回の解説ポイント
AIはなぜ電気を使うのか
AIは、質問に答えたり、画像を作ったりするために、多くの計算を行います。
多くのクラウド型AIでは、その計算をデータセンターにあるサーバーが支えています。
データセンターでは、サーバーだけでなく、データ保存装置、通信設備、冷却設備、停電に備える設備なども動いています。
四人の見方
玲:
画面の中では見えない、便利さの重さを見る。
澪:
読者目線で、「AIってそんなに電気を使うの?」と生活感から疑問を出す。
仁:
電力インフラ、データセンターの立地、省エネ、支える側の責任を見る。
凪:
AIの計算、学習と推論、データセンター、冷却、電力需要を整理する。
基本の仕組み
・AIは答えを作るために大量の計算を行う
・端末の中で動くAIもある
・大きな生成AIサービスの多くは、データセンターのサーバーで動く
・AIは、作るための学習でも、使うための推論でも電気を使う
・データセンターでは、計算だけでなく、保存、通信、冷却、停電対策にも電気を使う
・データセンター全体の電力消費と、AIだけの電力消費は分けて見る
・AIは電力需要を増やす一方で、省エネや電力網の効率化にも役立つ可能性がある
・個人の利用だけでなく、設備、制度、技術の改善を考える必要がある
今の暮らしとどうつながるか
AIは、スマホやパソコンの中だけで完結しているように見えます。
けれど、多くのクラウド型AIでは、利用者から見えない場所でサーバーが動き、電力が使われています。
だから、AIを見る時は、
便利さだけでなく、
それを支える電力、設備、冷却、送電網、省エネも一緒に考える必要があります。
この回の核になる一文
「見えない便利さにも、動かすための重さがある。」
参考資料
・国際エネルギー機関(IEA)『Energy and AI』
・資源エネルギー庁「増加が見込まれるデータセンターの電力需要をどうする? さらなる省エネを進める新たな制度に注目!」
・資源エネルギー庁『デジタル・AI技術による省エネ・生産性向上に向けた手引き』
・エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)「AIの普及により電力需要が急増! 電力不足を防ぐ取り組みを解説」

