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――見えない便利さにも、動かすための重さがある―― 四人で読む、世界のしくみ 科学・技術編② AIはなぜ電気を使うのか

四人で読む、世界のしくみ
――見えない便利さにも、動かすための重さがある―― 四人で読む、世界のしくみ 科学・技術編② AIはなぜ電気を使うのか

今回扱うテーマの一言紹介

AIが電気を使うのは、答えを出すために大量の計算を行い、その計算を支えるデータセンターや通信設備、冷却設備が動いているからです。

AIは、スマホやパソコンの画面の中だけで動いているように見えます。

けれど、多くのクラウド型AIサービスでは、遠くのデータセンターにあるサーバーが計算を行っています。

そこでは、計算用のサーバー、データを保存する装置、通信設備、冷却設備、停電に備える電源設備などが動いています。

画面に短い答えが表示されるまでに、見えない場所で多くの機械が働いています。


導入

夜の机。
澪はノートパソコンを開き、AIに文章の相談をしていた。

少し待つと、画面に答えが表示された。


「AIって、すぐ返事してくれるから、なんとなく軽いものに見えます。でも、これも電気を使っているんですよね?」


「はい。AIは、答えを作るために計算をしています。多くのクラウド型AIでは、その計算をデータセンターにあるサーバーが行います」


「見えない便利さにも、重さがあります」


「便利だから使う。それ自体は悪くない。だが、広く使うなら、支える電力と設備まで見なければならない」


AIはどこで動いているのか


「AIって、自分のパソコンの中で動いているわけじゃないんですか?」


「端末の中で動くAIもあります。スマホやパソコンの中だけで処理できるものもあります。でも、大きな生成AIサービスの多くは、データセンターにある高性能なサーバーを使っています」


「データセンターって、インターネットの倉庫みたいなものですか?」


「入口としては、その理解で大丈夫です。大量のデータを保存し、処理する施設です。ただ、AIの場合は、保存するだけではありません。答えを作るために、大量の計算も行います」


「倉庫というより、巨大な計算工場に近い。しかも、安定して動き続ける必要がある」


「画面の返事は、遠くの機械が動いた結果でもあります」


なぜAIには計算が必要なのか


「AIは、どんな計算をしているんですか?」


「AIの種類によって違います。文章生成AIの場合は、入力された文章を数値として処理し、前後のつながりを見ながら、次に出す言葉を組み立てていきます」


「どこかに完成した答えが保存されていて、それをそのまま出しているわけではないんですね」


「はい。質問に応じて、多くの計算を重ねながら答えを作ります。画像を生成するAIなら、文章とは別の仕組みで、画像を組み立てるための計算を行います」


「返事の速さは、計算の量を消してくれるわけではありません」


「短い答えでも、裏側が軽いとは限らない」


AIは、作る時にも使う時にも電気を使う


「AIが電気を使うのは、質問するときだけですか?」


「大きく分けると、二つの段階があります。一つは、AIを作るための“学習”。もう一つは、利用者の質問に答える“推論”です」


「学習と推論?」


「学習は、大量のデータからパターンを身につける段階です。推論は、学習した結果を使って、質問に答えたり、画像を作ったりする段階です」


「大きなAIを作るには、学習段階で大量の計算が必要になる。そして、使う人が増えれば、推論のための計算も積み重なる」


「作る時にも、使う時にも、電気が要ります」


データセンターは何に電気を使うのか

データセンターで電気を使うのは、AIの計算だけではありません。

まず、サーバーが動きます。
AIの計算には、高性能な半導体が使われます。

次に、データを保存する装置が動きます。
利用者から届いた情報を処理し、必要なデータを管理します。

さらに、通信設備が動きます。
質問を受け取り、答えを返すためです。

そして、冷却設備が動きます。
高性能なサーバーは熱を出します。
熱を逃がさなければ、機械は安定して動きません。

停電などに備える設備も必要です。


「AIの答えを作るためだけじゃなくて、冷やしたり、止まらないようにしたりするためにも電気を使うんですね」


「はい。計算する機械だけでなく、その機械が安定して動ける環境を保つ必要があります」


「電力だけではない。立地、送電網、冷却方法、災害への備えも関係する」


「便利さは、支える場所があって初めて動きます」


AIだけの電力消費と、データセンター全体の電力消費は分けて見る

ここで、一つ注意が必要です。

AIの普及によって、データセンターの電力需要は増えています。

ただし、データセンターはAIだけのためにあるわけではありません。

検索。
動画配信。
電子決済。
オンライン会議。
企業のクラウドサービス。
SNS。
ネット通販。

私たちが日常で使う多くのサービスも、データセンターに支えられています。


「データセンターが使う電気を、全部“AIが使った電気”と考えるのは違うんですね」


「そうです。AIは電力需要を増やす大きな要因ですが、データセンター全体の数字と、AIだけの数字は分けて見る必要があります」


「数字の置き場所を間違えるな。大きく見せることも、小さく見せることもできてしまう」


「分けて見る方が、重さを正しく受け止められます」


どれくらい大きな話なのか

国際エネルギー機関、IEAの推計では、世界のデータセンター全体が使う電力は、2024年に約415TWhでした。
これは、世界全体の電力消費量の約1.5%です。

さらにIEAは、2030年には約945TWhへ増えると見通しています。

AIは、その増加を押し上げる最大の要因です。
ただし、先ほど見たように、この数字にはAI以外のデジタルサービスも含まれています。


「割合だけ見ると小さく感じます。でも、電力量で見ると大きいんですね」


「はい。世界全体では数%でも、データセンターが集中する地域では、送電網や電源への負担が大きくなる場合があります」


「全国平均だけでは見えない負担がある。どこに建てるか、どこから電気を運ぶか。地域ごとに考えなければならない」


「小さく見える数字でも、場所によっては重くなります」


日本では何が問題になるのか

日本でも、AIやデジタル化を背景に、データセンターや半導体工場の新設が進んでいます。

ここでも注意が必要です。

電力需要が増える理由は、AIだけではありません。
データセンターの増加、半導体工場の新設、産業のデジタル化など、複数の要因があります。


「AIの話だけど、結局は電力インフラの話にもなるんですね」


「そうです。発電する力、電気を運ぶ送電網、データセンターを建てる場所、省エネ性能、災害への備え。全部が関係します」


「必要な電力を確保するだけでは足りない。効率よく使うことも必要だ。需要が増えるたびに、無制限に設備を増やせるわけではない」


「使う場所だけでなく、支える場所も見ます」


AIの電力問題は、AIを使うなという話なのか


「でも、AIが電気を使うなら、なるべく使わない方がいいんですか?」


「そこまで単純ではありません。AIは電力を使いますが、同時に、ほかの場所で使うエネルギーを減らす可能性もあります」


「どういうことですか?」


「たとえば、電力需要の予測、工場設備の効率化、建物の空調管理、物流ルートの調整、設備の故障予測などです。必要なところへ必要な分だけエネルギーを使うために、AIを活用できます」


「だから、答えは“使うな”ではない。“何に使うのか”“どれだけ効率よく動かすのか”“どこで支えるのか”だ」


「便利さを否定するのではなく、支え方を見る」


個人の使い方だけで解決する話ではない

AIの電力問題を、利用者一人ひとりの我慢だけで解決することはできません。

もちろん、何でもAIへ投げればよい、というわけでもありません。
けれど、それ以上に重要なのは、仕組みの側です。

省エネ性能の高いサーバーを使う。
冷却方法を改善する。
データセンターの立地を考える。
電源と送電網を整える。
必要な計算を、効率よく行う。
再生可能エネルギーを含め、安定した電力を確保する。


「使う人が罪悪感を持つだけでは足りないんですね」


「はい。利用者の意識も大切ですが、設備や制度、技術の改善が必要です」


「個人の注意だけに押しつけるな。広がる技術なら、支える仕組みも同時に整えろ」


「便利さの責任は、使う人だけのものではありません」


今の暮らしとどうつながるか

AIの電力問題は、専門家だけの話ではありません。

スマホでAIを使う。
仕事で文章や資料を作る。
画像や動画を生成する。
会社がAIサービスを導入する。
データセンターが増える。
地域の電力需要が増える。
電源や送電網の整備、省エネの議論につながる。

AIは便利です。
でも、その便利さは、どこかで電力を使い、設備を動かし、冷却し、維持することで成り立っています。


「AIを使う時、ただ“すごい”だけじゃなくて、その裏で何が動いているかも少し見た方がいいんですね」


「そうです。怖がる必要はありません。仕組みを知って、便利さと負荷を一緒に見ることが大切です」


「新しい技術を使うなら、支える仕組みまで見る。それが長く使うための条件だ」


「見えない便利さにも、動かすための重さがある」


締め

ノートパソコンの画面は、静かに光っていた。
澪は、AIの返事を読み終えてから、少しだけ手を止めた。


「AIって、画面の中の軽い道具だと思っていました。でも、その返事の向こうに、サーバーとか冷却設備とか、電力を運ぶ仕組みがあるんですね」


「今回は、AIがなぜ電気を使うのかを、計算、学習と推論、データセンター、冷却、電力インフラ、暮らしとの関係から見ました」


「技術は、使うだけなら簡単だ。だが、広げるなら、支える仕組みまで整えなければならない」


「見えない便利さにも、動かすための重さがある」


この回の核になる一文

「見えない便利さにも、動かすための重さがある。」


この回の解説ポイント

AIはなぜ電気を使うのか

AIは、質問に答えたり、画像を作ったりするために、多くの計算を行います。

多くのクラウド型AIでは、その計算をデータセンターにあるサーバーが支えています。
データセンターでは、サーバーだけでなく、データ保存装置、通信設備、冷却設備、停電に備える設備なども動いています。

四人の見方

玲:
画面の中では見えない、便利さの重さを見る。

澪:
読者目線で、「AIってそんなに電気を使うの?」と生活感から疑問を出す。

仁:
電力インフラ、データセンターの立地、省エネ、支える側の責任を見る。

凪:
AIの計算、学習と推論、データセンター、冷却、電力需要を整理する。

基本の仕組み

・AIは答えを作るために大量の計算を行う
・端末の中で動くAIもある
・大きな生成AIサービスの多くは、データセンターのサーバーで動く
・AIは、作るための学習でも、使うための推論でも電気を使う
・データセンターでは、計算だけでなく、保存、通信、冷却、停電対策にも電気を使う
・データセンター全体の電力消費と、AIだけの電力消費は分けて見る
・AIは電力需要を増やす一方で、省エネや電力網の効率化にも役立つ可能性がある
・個人の利用だけでなく、設備、制度、技術の改善を考える必要がある

今の暮らしとどうつながるか

AIは、スマホやパソコンの中だけで完結しているように見えます。

けれど、多くのクラウド型AIでは、利用者から見えない場所でサーバーが動き、電力が使われています。

だから、AIを見る時は、
便利さだけでなく、
それを支える電力、設備、冷却、送電網、省エネも一緒に考える必要があります。

この回の核になる一文

「見えない便利さにも、動かすための重さがある。」


参考資料

・国際エネルギー機関(IEA)『Energy and AI』
・資源エネルギー庁「増加が見込まれるデータセンターの電力需要をどうする? さらなる省エネを進める新たな制度に注目!」
・資源エネルギー庁『デジタル・AI技術による省エネ・生産性向上に向けた手引き』
・エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)「AIの普及により電力需要が急増! 電力不足を防ぐ取り組みを解説」