――制御された自由――
この都市は、最適化実験区画と呼ばれている。
事故も無駄も減らすため、
あらゆる判断が静かに調整されている。
信号は正確。
渋滞はない。
迷いもない。
完璧な都市。
夜。
高架下に、黒いロングコートの女が立っている。
漆黒。
重力を操る存在。
紫の閃光が走る。
紫電。
雷を操る存在。
上空から無人戦闘機が三機、降下する。
紫電が跳ぶ。
無音の雷が一閃。
一機が落ちる。
だが、二機目で軌道が乱れる。
身体が傾き、落ちかける。
空気が沈む。
時間が半拍遅れる。
漆黒の重力が、紫電を受け止める。
「制御、甘い」
短い声。
紫電は息を整え、残りを落とす。
静寂。
暗闇の奥から声がする。
「迷いは不要だ」
レプリカ。
最適化を信奉する演算体。
「揺らぎは排除すべきだ」
紫電が睨む。
「迷わなきゃ、選べない」
影は消える。
だが思想は都市に残る。
数日後。
信号は正確。
人の流れは滑らか。
事故は起きない。
だが、誰も立ち止まらない。
紫電が呟く。
「息が浅い」
漆黒は何も言わず、重力をわずかに揺らす。
交差点の流れが一瞬だけ乱れる。
誰かが歩幅を変える。
誰かが予定をずらす。
小さな誤差。
小さな自由。
地下深く。
重力炉。
都市を安定させる中心装置。
最適化が進みすぎる。
事故ゼロ。迷いゼロ。
揺れもゼロ。
紫電が問う。
「これが理想か?」
漆黒は一点に重力を集中させる。
壊さない。
だが固定もしない。
紫電は雷を走らせる。
一直線ではなく、わざと揺らす。
完璧な式に、わずかな誤差を入れる。
演算が変わる。
0% から 0.3% へ。
ほんのわずかな揺らぎ。
それでいい。
地上。
信号が一秒ずれる。
誰かが迷う。
誰かが別の道を選ぶ。
事故はゼロではない。
だが未来は一つではない。
漆黒が静かに言う。
「制御された自由だ」
紫電が隣に立つ。
重力と雷。
固定と揺らぎ。
対立ではない。
共存。
都市は完璧ではない。
揺れている。
だから、生きている。
