街の隔離が解かれる。
澪の指が、最後のキーを押した。
止められていた流れが、ゆっくりと戻り始める。
閉じられていた道がひらき、人の移動が再開する。
街は再び、人の気配を取り戻していった。
同時に、都市演算の揺れが走る。
制御の再編を示す警告が、管理ホールの各所に点った。
仁が低く言う。
「お前は都市を危険にした」
玲はスクリーンの向こうに広がる街を見つめたまま、静かに答える。
「違う」
「何だ」
玲の声は揺れない。
「揺らぎを残した」
一瞬、空気が止まる。
アークシティは完璧ではない。
最初から、揺らぎを消しきれる街ではなかった。
それでも人とともに、続いていかなければならない。
仁はしばらく玲を見ていた。
その目は厳しい。
だが、逸れない。
「私は削る」
玲はわずかに頷く。
「知っている」
澪は二人を見て、それから街の表示へ視線を戻した。
「現場に戻る。まだ直すところがあるから」
その言葉だけが、管理ホールに残った緊張を、少しだけ現実へ引き戻した。
玲は都市を俯瞰する位置に立ったまま、短く言う。
「揺らぎを」
一拍置く。
「背負う」
夜の中心で、アークドームが静かに光っている。
都市の顔は変わらない。
だが、その意味はもう同じではなかった。
境界が消えることはない。
危険をなくすこともできない。
それでも、どこに線を置くかを決めるのは、人であるべきだった。
アークシティは今日も動いている。
不完全なまま。
それでも、人とともに。
