STORY / BLACK VELOCITY

BLACK VELOCITY: Civil Threshold Episode 8 揺らぎを背負う

街の隔離が解かれる。

澪の指が、最後のキーを押した。
止められていた流れが、ゆっくりと戻り始める。

閉じられていた道がひらき、人の移動が再開する。
街は再び、人の気配を取り戻していった。

同時に、都市演算の揺れが走る。

制御の再編を示す警告が、管理ホールの各所に点った。

仁が低く言う。

「お前は都市を危険にした」

玲はスクリーンの向こうに広がる街を見つめたまま、静かに答える。

「違う」

「何だ」

玲の声は揺れない。

「揺らぎを残した」

一瞬、空気が止まる。

アークシティは完璧ではない。
最初から、揺らぎを消しきれる街ではなかった。

それでも人とともに、続いていかなければならない。

仁はしばらく玲を見ていた。
その目は厳しい。
だが、逸れない。

「私は削る」

玲はわずかに頷く。

「知っている」

澪は二人を見て、それから街の表示へ視線を戻した。

「現場に戻る。まだ直すところがあるから」

その言葉だけが、管理ホールに残った緊張を、少しだけ現実へ引き戻した。

玲は都市を俯瞰する位置に立ったまま、短く言う。

「揺らぎを」

一拍置く。

「背負う」

夜の中心で、アークドームが静かに光っている。

都市の顔は変わらない。
だが、その意味はもう同じではなかった。

境界が消えることはない。
危険をなくすこともできない。

それでも、どこに線を置くかを決めるのは、人であるべきだった。

アークシティは今日も動いている。

不完全なまま。
それでも、人とともに。