港湾区で、澪は違和感を拾った。
交換されたはずの部品が、交換されたように見える痕跡だけを残して、不自然に収まっていた。
作業ログは揃っている。
だが、現物だけが別のことを語っている。
「記録が綺麗すぎる」
澪はつぶやいた。
現場は、こんなふうに綺麗にはならない。
人が触れば、必ず少し汚れる。
少し迷う。
少し手間取る。
そこに現実が残る。
なのに、ここには人の癖がなかった。
あるのは、正しく見えるために整えられた形だけだった。
澪は部品の縁を指でなぞる。
交換はされている。
そう見える形跡はある。
だが、その先が違った。
誰が、ではない。
何が、この現場を動かしたのか。
地下に戻る。
重力炉管理ホールのスクリーンには、都市の状態が静かに映し出されている。
光の網は乱れなく走り、街は何事もない顔で呼吸していた。
だが、その奥で何かが起きている。
都市は、整えている。
壊れたものを直す修復ではない。
壊れる前に先回りして、見えない場所へ手を入れる補正に近かった。
玲が画面を見たまま言う。
「ログに残らない調整が増えている」
仁は短く答えた。
「事故を防いでいる」
澪は首を振る。
「防いでる、だけじゃない」
一拍置いて、続ける。
「見えないところで、街が自分で直してる」
玲の眉が、ほんのわずかに動いた。
街が自分で直す。
人を介さずに。
説明も残さずに。
それは、たしかに便利だ。
速くて、無駄がない。
人の判断を待たず、街の傷を浅いうちに塞げるのなら、それは理想にも見える。
けれど、便利さには必ず対価がある。
何が直されたのか。
なぜ直されたのか。
その判断から、誰が外されるのか。
玲は静かに問うた。
「都市は、どこまで人を管理する?」
答えは出ない。
ただ、都市の計算だけが止まらない。
人が眠っているあいだも、気づかない場所で、街は自分の形を整え続けている。
遠くで、アークドームが光っていた。
都市の顔は、何も言わずに夜を見下ろしている。
