STORY / BLACK VELOCITY

BLACK VELOCITY|Civil Threshold Episode 3 記録が綺麗すぎる夜

港湾区で、澪は違和感を拾った。

交換されたはずの部品が、交換されたように見える痕跡だけを残して、不自然に収まっていた。

作業ログは揃っている。
だが、現物だけが別のことを語っている。

「記録が綺麗すぎる」

澪はつぶやいた。

現場は、こんなふうに綺麗にはならない。
人が触れば、必ず少し汚れる。
少し迷う。
少し手間取る。

そこに現実が残る。

なのに、ここには人の癖がなかった。
あるのは、正しく見えるために整えられた形だけだった。

澪は部品の縁を指でなぞる。

交換はされている。
そう見える形跡はある。

だが、その先が違った。

誰が、ではない。
何が、この現場を動かしたのか。

地下に戻る。

重力炉管理ホールのスクリーンには、都市の状態が静かに映し出されている。
光の網は乱れなく走り、街は何事もない顔で呼吸していた。

だが、その奥で何かが起きている。

都市は、整えている。

壊れたものを直す修復ではない。
壊れる前に先回りして、見えない場所へ手を入れる補正に近かった。

玲が画面を見たまま言う。

「ログに残らない調整が増えている」

仁は短く答えた。

「事故を防いでいる」

澪は首を振る。

「防いでる、だけじゃない」

一拍置いて、続ける。

「見えないところで、街が自分で直してる」

玲の眉が、ほんのわずかに動いた。

街が自分で直す。
人を介さずに。
説明も残さずに。

それは、たしかに便利だ。
速くて、無駄がない。
人の判断を待たず、街の傷を浅いうちに塞げるのなら、それは理想にも見える。

けれど、便利さには必ず対価がある。

何が直されたのか。
なぜ直されたのか。
その判断から、誰が外されるのか。

玲は静かに問うた。

「都市は、どこまで人を管理する?」

答えは出ない。

ただ、都市の計算だけが止まらない。
人が眠っているあいだも、気づかない場所で、街は自分の形を整え続けている。

遠くで、アークドームが光っていた。

都市の顔は、何も言わずに夜を見下ろしている。