中央駅から住宅区画へ向かう支線の最終便は、翌月から減らされる予定だった。
運行記録では、平日の平均利用者が三人しかいない。
三人のために最終便を走らせ続けるより、一便前を最終にした方がよい。
運行担当部署は、その数字を基に時刻表を見直そうとしていた。
しかし、車両側に残る乗車記録では、毎晩十人以上が最終便へ乗っている。
二つの数字が合わない理由を調べるため、赤嶺凪が中央駅の運行確認室へ呼ばれた。
午後十一時四十分。
凪は、窓越しに支線のホームを見下ろしていた。
最終便を待っているのは三人だった。
運行画面にも、利用予定者は三人と表示されている。
そのとき、都市中心部から来た本線の列車が到着した。
降りてきた人のうち十一人が、支線のホームへ移った。
遅い時間まで働いていた人。
食品の入った袋を下げた人。
眠そうに目をこすりながら、端末で明日の予定を確認する人。
最終便の扉が開くと、先に待っていた三人と、乗り換えてきた十一人が乗った。
合計十四人。
それでも、支線の利用者数は三人のままだった。
「乗り換えた十一人が入っていません」
凪が言った。
運行担当者は画面を確認した。
「乗車記録はあります。集計にも送られています」
記録が消えたわけではなかった。
凪は十一人の移動記録が、集計画面のどこへ入ったのかを追った。
アークレールでは、一人が複数の路線を乗り継いでも、都市全体の利用者数では「一回の移動」として数える。
同じ人を本線と支線の両方で数えれば、都市全体の利用者数が実際より多くなるからだ。
そのため、一回の移動は、最も長く乗った路線へまとめて登録されていた。
本線を長く乗り、最後だけ支線へ乗り換えた十一人は、全員が本線の利用者として数えられている。
支線に付いていた三人は、中央駅から直接乗った人だけだった。
集計方法は、都市全体で何人が移動したかを数えるには正しい。
だが、支線の最終便に何人が乗ったかを判断する数字ではなかった。
「では、乗り換えた人を支線にも加えればいいですね」
運行担当者が言った。
凪は首を横へ振った。
「同じ表には加えられません」
一人を本線と支線の両方へ加えれば、今度は都市全体の利用者数が重複する。
必要なのは、一つの数字を直すことではなかった。
目的の違う二つの数字を分けることだった。
都市全体で何人が移動したかを示す「移動人数」。
各便に実際に何人が乗ったかを示す「乗車人数」。
前者は、同じ人を一度だけ数える。
後者は、乗り換えた路線ごとに数える。
凪は、保存されている三か月分の乗車記録を集計し直した。
支線の最終便を使った人数は、平日なら十一人から十六人だった。
三人前後だったのは、中央駅から直接乗った人だけである。
本線から乗り換える人は、毎晩ほぼ同じ時刻に到着していた。
偶然、一日だけ増えた人数ではない。
住宅区画へ帰るため、最終便を継続して使っている人たちだった。
一方、三か月より前の記録は、路線ごとの詳しい乗車履歴が残っていなかった。
そこから先は、実際の乗車人数を確定できない。
凪は、分からない期間を推定で埋めなかった。
運行担当者が、減便案の画面を見た。
「最終便を残すべきですか」
「それは運行担当が決めてください」
凪は、集計結果を示した。
「ただし、三人という数字では決められません」
凪が提出した分析には、三つのことが記されていた。
三人という数字は、中央駅から直接支線へ乗った人の数であること。
最終便へ実際に乗った人数は、保存されている三か月分では毎晩十人を超えていること。
それ以前の乗車人数は、現在の記録からは確認できないこと。
運行担当部署は、翌月からの減便をいったん見送った。
今後三か月間、都市全体の移動人数とは別に、便ごとの乗車人数を確認してから、最終便の時刻を改めて検討することにした。
ほかの支線についても同じ集計のずれがないか、確認が必要になった。
時刻表が今後も変わらないと決まったわけではない。
それでも、実際には十四人が乗っている便を、三人しか使っていない便として扱うことは止められた。
最終便が中央駅を出ていく。
運行画面には、二つの数字が並んでいた。
移動人数、三人。
乗車人数、十四人。
凪は確認時刻を分析記録へ残し、住宅区画へ伸びていく車両の灯りを見送った。
掲載メモ
1993年8月28日、NASAの探査機ガリレオが小惑星イダへ接近し、約2,400キロメートルの距離から観測しました。
撮影された画像を後に詳しく調べた結果、イダには小さな衛星が伴っていることが分かりました。この衛星は後にダクティルと名付けられ、小惑星に衛星が存在することを初めて確認した事例となりました。
この短編では、宇宙探査、小惑星、衛星をアークシティで再演していません。「主な対象だけを数えることで、そのそばにいる小さな存在を見落としていないか」という問いだけを受け取っています。
参照・確認した情報
NASAによると、ガリレオは1993年8月28日、木星へ向かう途中で小惑星イダへ接近しました。約五か月後、送られてきた画像を調べていた研究者が、イダに小さな衛星が伴っていることへ気づきました。
NASAとジェット推進研究所は、この衛星を小惑星で初めて確認された衛星と説明しています。米国地質調査所の惑星命名記録では、イダの衛星「ダクティル」の発見日は1993年8月28日、発見者はガリレオの撮像・赤外線科学チームとされています。
