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8月28日|最終便の三人は、本当は十四人だった

アークシティ暦片
8月28日|最終便の三人は、本当は十四人だった

中央駅から住宅区画へ向かう支線の最終便は、翌月から減らされる予定だった。

運行記録では、平日の平均利用者が三人しかいない。

三人のために最終便を走らせ続けるより、一便前を最終にした方がよい。

運行担当部署は、その数字を基に時刻表を見直そうとしていた。

しかし、車両側に残る乗車記録では、毎晩十人以上が最終便へ乗っている。

二つの数字が合わない理由を調べるため、赤嶺凪が中央駅の運行確認室へ呼ばれた。

午後十一時四十分。

凪は、窓越しに支線のホームを見下ろしていた。

最終便を待っているのは三人だった。

運行画面にも、利用予定者は三人と表示されている。

そのとき、都市中心部から来た本線の列車が到着した。

降りてきた人のうち十一人が、支線のホームへ移った。

遅い時間まで働いていた人。

食品の入った袋を下げた人。

眠そうに目をこすりながら、端末で明日の予定を確認する人。

最終便の扉が開くと、先に待っていた三人と、乗り換えてきた十一人が乗った。

合計十四人。

それでも、支線の利用者数は三人のままだった。

「乗り換えた十一人が入っていません」

凪が言った。

運行担当者は画面を確認した。

「乗車記録はあります。集計にも送られています」

記録が消えたわけではなかった。

凪は十一人の移動記録が、集計画面のどこへ入ったのかを追った。

アークレールでは、一人が複数の路線を乗り継いでも、都市全体の利用者数では「一回の移動」として数える。

同じ人を本線と支線の両方で数えれば、都市全体の利用者数が実際より多くなるからだ。

そのため、一回の移動は、最も長く乗った路線へまとめて登録されていた。

本線を長く乗り、最後だけ支線へ乗り換えた十一人は、全員が本線の利用者として数えられている。

支線に付いていた三人は、中央駅から直接乗った人だけだった。

集計方法は、都市全体で何人が移動したかを数えるには正しい。

だが、支線の最終便に何人が乗ったかを判断する数字ではなかった。

「では、乗り換えた人を支線にも加えればいいですね」

運行担当者が言った。

凪は首を横へ振った。

「同じ表には加えられません」

一人を本線と支線の両方へ加えれば、今度は都市全体の利用者数が重複する。

必要なのは、一つの数字を直すことではなかった。

目的の違う二つの数字を分けることだった。

都市全体で何人が移動したかを示す「移動人数」。

各便に実際に何人が乗ったかを示す「乗車人数」。

前者は、同じ人を一度だけ数える。

後者は、乗り換えた路線ごとに数える。

凪は、保存されている三か月分の乗車記録を集計し直した。

支線の最終便を使った人数は、平日なら十一人から十六人だった。

三人前後だったのは、中央駅から直接乗った人だけである。

本線から乗り換える人は、毎晩ほぼ同じ時刻に到着していた。

偶然、一日だけ増えた人数ではない。

住宅区画へ帰るため、最終便を継続して使っている人たちだった。

一方、三か月より前の記録は、路線ごとの詳しい乗車履歴が残っていなかった。

そこから先は、実際の乗車人数を確定できない。

凪は、分からない期間を推定で埋めなかった。

運行担当者が、減便案の画面を見た。

「最終便を残すべきですか」

「それは運行担当が決めてください」

凪は、集計結果を示した。

「ただし、三人という数字では決められません」

凪が提出した分析には、三つのことが記されていた。

三人という数字は、中央駅から直接支線へ乗った人の数であること。

最終便へ実際に乗った人数は、保存されている三か月分では毎晩十人を超えていること。

それ以前の乗車人数は、現在の記録からは確認できないこと。

運行担当部署は、翌月からの減便をいったん見送った。

今後三か月間、都市全体の移動人数とは別に、便ごとの乗車人数を確認してから、最終便の時刻を改めて検討することにした。

ほかの支線についても同じ集計のずれがないか、確認が必要になった。

時刻表が今後も変わらないと決まったわけではない。

それでも、実際には十四人が乗っている便を、三人しか使っていない便として扱うことは止められた。

最終便が中央駅を出ていく。

運行画面には、二つの数字が並んでいた。

移動人数、三人。

乗車人数、十四人。

凪は確認時刻を分析記録へ残し、住宅区画へ伸びていく車両の灯りを見送った。


掲載メモ

1993年8月28日、NASAの探査機ガリレオが小惑星イダへ接近し、約2,400キロメートルの距離から観測しました。

撮影された画像を後に詳しく調べた結果、イダには小さな衛星が伴っていることが分かりました。この衛星は後にダクティルと名付けられ、小惑星に衛星が存在することを初めて確認した事例となりました。

この短編では、宇宙探査、小惑星、衛星をアークシティで再演していません。「主な対象だけを数えることで、そのそばにいる小さな存在を見落としていないか」という問いだけを受け取っています。

参照・確認した情報

NASAによると、ガリレオは1993年8月28日、木星へ向かう途中で小惑星イダへ接近しました。約五か月後、送られてきた画像を調べていた研究者が、イダに小さな衛星が伴っていることへ気づきました。

NASAとジェット推進研究所は、この衛星を小惑星で初めて確認された衛星と説明しています。米国地質調査所の惑星命名記録では、イダの衛星「ダクティル」の発見日は1993年8月28日、発見者はガリレオの撮像・赤外線科学チームとされています。